児童相談所の法的義務
児童相談所は、児童の福祉に関し、主として、児童に関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものに応ずること(児童福祉法11条1項2号ロ)、児童及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行うこと(同ハ)、児童及びその保護者につき、前記の調査又は判定に基づいて心理又は児童の健康及び心身の発達に関する専門的な知識及び技術を必要とする指導その他必要な指導を行うこと(同ニ)等の業務を行うものとされ、かつ、これらの業務を適切に実施することが要請されています(同法3条の2、3条の3、12条3項等参照)。
なお、指導(行政指導)とは、行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものです(行政手続法2条6号)。
児童相談所の業務を評価する外部機関がないこと
上記のように児童相談所には「相談に応じ、調査、判定、指導をする。それらを適切に実施する」という法的義務があリますが、児童相談所が個々のケースでこれらの法的義務を適切に果たしているかどうかを評価する仕組みは、ありません。そのため実際には、相談に応じず、必要な調査をせず、誤った判定をし、誤った指導を行う、ということが横行しているのが現状です。
全国の都道府県に設置されている「社会福祉協議会」に対しては、社会福祉法で「福祉サービス利用援助事業の適正な運営を確保するとともに、福祉サービスに関する利用者等からの苦情を適切に解決するため、運営適正化委員会を置く」と定められています(社会福祉法83条)。しかし児童福祉法には、このような第三者機関を置く規定はありません。児童相談所において、相談に応じてもらえない、必要な調査をしてもらえない、誤った判定をされた、誤った指導をされた、等があっても、そのことを相談する場所はありません。
もし児童相談所の職員に「誤った判定をされた、誤った指導をされた」などと訴えたら、そのことをもって「保護者が児相からの指導に従わない」と判断され、強制的な親子分離が長期化する原因となります。ですから保護者は児童相談所の不適切な対応について、どこにも相談できません。児童相談所の職員も人間である以上は間違えることはあります。しかしその間違いを正す仕組みはどこにもありません。
第三者機関の必要性
児童相談所には、児童相談所長が必要と判断すれば虐待事実の有無等に関わらずに強制的に児童を親から引き離す強力な権限が与えられています。その権限の強さは前記の「社会福祉協議会」が持つ権限とは比べようもないほど大きなものです。厚生労働省も、児童相談所の権限を「非常に強力な行政権限である……このような強力な行政権限を認めた制度は、諸外国の虐待に関する制度としても珍しく、日本にも類似の制度は見当たらない。」と述べています(※1)。児童相談所にこそ、適正な運営を確保するための第三者機関が必要であることは、議論の余地がありません。本来であれば社会福祉法と同様に、児童福祉法によって第三者機関の設置が定められるべきですが、そのような法がない以上、有志が集まり立ち上がるしかありません。
※1 | 厚生労働省「子ども虐待対応の手引き > 第5章一時保護」の「5. 職権による一時保護の留意点は何か」「(1)基本的留意事項」より。 |